違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ

日本語学校で教えている日本語教師の備忘的メモです。学術的な正確さは保証の限りではありません。このブログの記載は、勤務先の日本語学校の見解ではありません。随時修正・追記します。

遅く返信します/先生はすごく助けてくれた

この数日に実際に来たメールより。一通目はフランス人卒業生。

メール遅く返信して本当にすみません。
 
とにかく先生はすごく助けてくれたので本当にありがとうございました。

二通目はベトナム人学生。

ごめんなさい ちょっと遅いです
宿題は遅く送ります!

まったく接点のない二人から「遅く送信する」「遅く送る」という表現が立て続けに来たので面白く感じた。これは母語の干渉というより、日本語の特性ということになろう。

あと、先生が尽力したことに対して「助けてくれた」という表現を使うのも、母語を問わずよく見られる表現である。

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「イ形容詞+です」問題 - 校正ツールEnnoのチェック内容から

開設から間もなく、アクセスもほぼゼロだったこのブログに、昨日、いきなり一万を超えるアクセスがあってびっくりした。前回のメモがはてなブックマークで注目されてしまったようだ。

LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」 - 違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ

さて、今回は少し前に話題になっていた「校正ツール」に関連して、「イ形容詞+です」問題を扱ってみたい。

ブロガー必見の文章校正ツール『Enno』が思った以上に便利だった! - 数学は中二で卒業しました

このEnnoという校正ツールが「必見」かどうか、などは別にして、私が興味を持ったのは、そのチェック内容の例である。画像を上記ブログから引用させていただく。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/n/nurahikaru/20140818/20140818083104.jpg

文章が「(過去または現在の)形容詞+です」で終わると、子どもに話しかけるときのような、あるいは小学生の読書感想文のようなつたない感じになることがよくあります。あからさまな間違いではありませんが、可能であれば他の形に書き直してみてはいかがでしょうか。

いわゆる「イ形容詞+です」問題である。日本語教育の現場では、初級テキストの初めの方に堂々と「今日は寒いです」という形が出てくる。これについて少々。

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LINE乗っ取り犯の「整理日本語言.txt」に見る「母語の干渉」

LINEのアカウントを乗っ取り、その知人に金券カードを買わせるという詐欺行為が頻発している。その乗っ取り行為を行っている犯人は中国語圏出身者であるというが、その「台本」が誤って送られてきたという記事があった。

まさかの誤爆!LINE乗っ取り犯が“台本”を送信、その全文を公開 - 週アスPLUS

その文字起こしをした方もいる。

週刊アスキーが報じたLINE乗っ取り台本「整理日本語言(1).txt」の文字起こしと分類をしてみた。 - piyolog

日本語教師としては、この不自然な日本語訳に、日々接している中国人留学生の誤用と共通するものを見る。(※もちろん、私の接している中国人留学生たちを犯人扱いする気は毛頭ないどころか、このような悪事とは無関係であると信ずる。たまたまLINE乗っ取り犯と彼らの母語が一致しただけのことであって、「これだから中国人は……」というような悪しき一般化を行ってはならないことは言うまでもない。)

以下、あくまでも言語的、日本語教育的な観点での分析である。

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「なければならない」「てもいい」「なくてもいい」「てはいけない」

前回扱った、みんなの日本語初級Ⅰの15課+17課の問題の続きだが、今回は教科書の問題ではない。

変換練習ができるようになった学生に、このような問題を出すと、なかなかできない。

【問】あなたの国のことを教えてください。

  • (             )なければなりません。
  • (             )なくてもいいです。
  • (             )てもいいです。
  • (             )てはいけません。

て形・ない形の変換ができたとしても、たとえば「わたしの国では、男と男が結婚しなくてもいいです」のような誤用が出てくる(実体験)。この文を見たとき、「えっ、あなたの国では同性結婚がふつうだけど、例外も認められてるの?」というのが日本語母語話者の自然な反応だろう。ただ、冷静に考えてみると(あくまでも論理的には、だが)同性結婚が認められている国で同性結婚を「しなくてもいい」というのは間違いではない。論理的に間違っていない以上、単純化して教わった非母語話者がこのような文を作ってしまうことをとがめることはできない。

では、どうして論理的に間違いではないのに、ネイティブにはおかしく感じられるのか。

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「Vてはいけません」「Vないでください」の練習問題

日本語教科書の『定番』であり、現時点でもおそらくは最大シェアを誇ると思われる『みんなの日本語 初級Ⅰ』の第二版が2012年に発行され、引き続き初級Ⅱや副教材なども第二版になりつつある。

文法シラバスに基づいたテキストであり、コミュニカティブアプローチや会話、タスク、Can Do主体の授業にしようとすれば必然的に工夫が必要になるが、「教科書《を》」教えるのではなく「教科書《で》」もしくは『教科書《も使って》』教えるのだと考えれば、確かによくできた文法テキストだと思う。

ただ、気になる点もある。たとえば、15課「~てはいけません」と17課「~ないでください」の練習B(文型を使った代入練習)が同じような設定になっており、この練習だけでは、学習者には二つの文型のニュアンスの違いが理解できない。

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「~に頼る」「~を頼りにする」「~を頼る」

中級教材『J501』の3課。本文では「人に頼る暮らし」、ことばのネットワーク練習問題では「アメリカに住んでいる知人を頼って、渡米しました」とある。

少なくとも、この2例において、「に」と「を」ではニュアンスが違う。さらに「~を頼りにする」と比較して3つのパターンについて違いを考えてみた。

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