違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ

日本語学校で教えている日本語教師の備忘的メモです。学術的な正確さは保証の限りではありません。このブログの記載は、勤務先の日本語学校の見解ではありません。随時修正・追記します。

「~に頼る」「~を頼りにする」「~を頼る」

中級教材『J501』の3課。本文では「人に頼る暮らし」、ことばのネットワーク練習問題では「アメリカに住んでいる知人を頼って、渡米しました」とある。

少なくとも、この2例において、「に」と「を」ではニュアンスが違う。さらに「~を頼りにする」と比較して3つのパターンについて違いを考えてみた。

 

「Aに頼る」
Aに依存する。一部もしくは全体をAに任せっきりにしてしまう。

  • 私たちはカキの種を宮城に頼っていましたが、町でも自前の種苗センターを作りました。
  • 近年、この手のサプリメントに頼ってしまいます。
  • 景気失速によりアメリカの世界各国からの輸入は急速に減少しており、アメリカへの輸出に頼っていたアジアや日本などは、その影響に直撃されている。

「Bを頼りにする」
Bに依存するが、「Aに頼る」よりは依存度が低い/主体性が高いように思われる。というのも、「頼る」は自分が努力すべき部分を他人に任せている全面的依拠だが、「頼りにする」は、相手を信頼していることが強調されているからではないか。

  • 医学的な知識を持たず、専門家である主治医だけを頼りにしてきた家族が、こうした返答を突きつけられたら、どんな思いを味わわなければならないか。
  • 今日、博士学位を得られた皆さんは、何を信じ、何を頼りにして行動し、これからの人生を歩んでゆくかということが問われています。
  • 父親は、母親に対して怒鳴るときもあったが、次第に、母親を頼りにしていった。

「Cを頼る」
Cの世話を受けに行く。Cによる援助に依拠して行動を行う。何らかの移動行為が伴うことが多いように思われる。

  • つてを頼って、有名な脳神経外科医であるK大学病院のK教授をわざわざ呼んできて出張手術をしてもらった。(※「伝手を頼る」がこの形での最も典型的な表現かと思われる。テキストの練習問題も「知人の伝手を頼って」の略と考えることが可能だ。)
  • 二十歳を機に、「天下のご意見番」として名高い大久保彦左衛門を頼って、江戸へ出た。
  • ローマ郊外で結婚している友だちを頼って、夏のひと月イタリアにいたことがある。

(例文はコーパス少納言」を参照)

 一言で言えば、「Aに頼る」=依存、「Bを頼りにする」=信頼、「Cを頼る」=コネ利用、か。